奈良県御所市(ごせし)多田の集落の中に、一軒の古民家が建っている。

集落を通る幅のある道路に面し、木の外壁には小さな額縁のような看板が掛けられている。「デザインと陶のアトリエ」と書かれたその看板は、鎌田義昭さんが自作したものだという。
建物と周囲の様子に、自然と目が留まる。古民家の構造を活かしながら使われている佇まいである。その中に、今の仕事の場がある。
鎌田義昭さんは、この古民家を拠点にデザインの仕事を続けながら、器づくりも行っている。現在は兵庫県宝塚市の自宅との二拠点生活で、車で行き来しながら、この場所での時間を過ごしている。

ここに拠点を移したのは約七年前。それまでは大阪市北区西天満に事務所を構え、十年以上にわたって活動していた。

もともとは近隣の広告企画会社からの仕事を受けるなど、場所の利便性が必要な環境だったが、打ち合わせの多くがオンラインへと移行し、現地にいる必要性は次第に薄れていった。

「あまり北区に固執する意味がないかなと思うようになった」と振り返る。

その変化の中で、この地域に移り住んだ知人を訪ねた際、周囲の環境に強く惹かれた。何度か足を運ぶうちに、「事務所がここにあってもいいのではないか」という感覚が生まれ、移転を決めたという。

古民家は、もともと貸し出される予定の建物ではなかった。地域の人に相談し、家主の連絡先を教えてもらい、直接話をすることで借りることになった。現在も建物の構造には手を加えず、内装を中心に少しずつ手を入れながら使っている。

この場所に移ってから、人との関わり方にも変化が見られるようになった。

西天満の事務所では、クライアントとのやり取りはあっても、地域とのつながりを感じる場面はほとんどなかった。

一方で御所に拠点を持ってからは、日常の中で関わる人が増えていった。

近所の人とのやり取りに加え、地域活性化を目的とした協議会「Eco resort 御所郷」に参加するようになり、関わりの幅も広がった。

協議会では月に一度の会議があり、イベントの時期には準備にも関わる。「さんろくフェスタ」などのマルシェの運営に携わるほか、農業部会の活動にも参加し、農業学校の取り組みの手伝いをすることもある。

「外を歩いていると、知っている人に会うことが多い」と話すように、この場所での生活は特定の仕事の場にとどまらず、以前の環境では感じにくかった人との関わりが、日常の中に入り込んでいる。

デザインの仕事は、現在も中心にある。
もともとは家電メーカーのカタログやポスターなど紙媒体のデザインを手がけていたが、その後ウェブやモバイルへと領域が広がり、現在はスマートフォンアプリのインターフェースデザインに関わっている。

「デザインは好きなので、これからも続けていきたい」と話す。

一方で、陶芸を始めたのは約八年前のことだった。もともと興味はあったものの、仕事に追われる中で取り組む機会がなく、陶芸教室に通い始めたことがきっかけとなった。古民家へ移る際には、制作スペースを設けることも考えていたという。
現在はデザインの仕事を軸にしながら、時間に余裕があるときに制作を行っている。ただ、陶芸は短い時間で区切って進めることが難しい。

成形した粘土は乾燥の状態を見ながら削る必要があり、タイミングを逃すと作業ができなくなることもある。そのため、まとまった時間を確保できるときに取り組む形になっている。

「一時間空いたから一時間だけやる、ということができないんです」と話すように、工程ごとのつながりを見ながら進める必要がある。乾燥が進みすぎないように湿度を調整し、作業のタイミングをずらすこともある。

制作しているのは、日常で使うことを前提とした器が中心である。カヌレをのせるための小さな器も制作している。
「飾るものではなく、使っていて手に馴染むものに興味がある」と話す。

形はできるだけシンプルにし、装飾や主張を抑える。自己主張せず、周囲に溶け込むような器を目指している。釉薬も艶の強いものではなく、つや消しのものを選んでいる。

アトリエの作品では、妻も制作している。鎌田さんが器を作る一方で、妻は小さなフィギュアのような作品を制作している。猫をモチーフにした陶製のフィギュアでは、鎌田さんがベースの部分を作り、妻が小さな装飾を加える形で一つの作品になることもある。
作品はオンラインで販売しているが、規模は大きくない。注文が入ると、作品を一つずつ確認しながら梱包し、発送する。箱やラベルも自分で用意し、スタンプやステッカーを使って仕上げている。

この場所に移ったことで、デザインの仕事の関わり方にも変化が見られるようになった。地域の活動に関わる中で、農業学校のホームページ制作を提案するなど、地域の中で必要とされるデザインに関心が向いている。

「人との関わりは大事にしたい」と話す。協議会に参加するようになってから、関係の幅はさらに広がったという。
古民家の中では、デザインの作業机と陶芸の制作スペースは別の部屋にあるが、仕切りは開かれており、空間としてはつながっている。
それぞれの作業は同時に進むわけではないが、同じ場所の中で使い分けながら行き来している。

デザインの仕事を続けながら地域と関わり、時間のあるときに器を作る日々が、この場所で続いている。
取材:2026年4月